最近読んで面白かった本のレビュー【観察力を磨く名画読解】
このところ、美術史や西洋絵画の本を読むのが、マイブーム?になっていたのですが、そんな中で偶然手に取った本が、なかなか示唆に富む内容でしたので、ご紹介いたします。
タイトルや表紙の感じから、「名画鑑賞」についての本だと思い、なんとなく手に取りましたが、実は、絵画をじっくり見ることを通して「観察力を養う方法」について書かれた本でした!
「名画鑑賞の本」と早とちりしてしまうとは、私の「観察力全く無し」という実態?を最初から露呈してしまいましたね!お恥ずかしいかぎりです… (;'∀')
「観察力を磨く」ことは、「日頃の生活や、仕事、勉強などにも、とても役に立つ」ということに気付けた、興味深い本です。
「観察力を磨く名画読解」(早川書房)
エイミー・E・ハーマン 著
岡本由香子 訳
第1部 「観察」
第2部 「分析」
第3部 「伝達」
第4部 「応用」
といった、4部構成で書かれています。
それではさっそく、どんな感じの本なのか、ざっくりとご紹介いたします。
参考にしていただければ、嬉しいです。
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第1部 【観察】
「私たちには、見ようとする世界しか見えない。」
という、「森の生活」の著者ヘンリー・デヴィッド・ソローの言葉で始まる第1部。
「じっくり観察し、気づく」こととはどんなことなのかが、順を追って説明されていきます。
(P23 より引用)
レオナルド・ダ・ヴィンチが科学や芸術分野で数々の偉業を残したのも、観察力のおかげだ。”大事なのはものの見方を知ること” という言葉を残している。ダ・ヴィンチは知覚の技法を習得していたのである。
(P25 より引用)
人は目で見るのではなく、脳で見るのである。
「物を見る」ということは、単に目に映るものを視覚的に見るだけで充分ではないと、著者は説いています。
どんなふうに絵画を見ることで観察力が養われるのでしょうか?
(P30 より引用)
アートを教材にすれば複雑な状況はもちろん。一見すると単純だが、実は深い意味をもつ場面も分析できる。皮肉ながら、平凡でよく知っていることについて語るほうが、難しいことが多い。なぜなら、そこにおもしろいことや、いつもとちがうことが潜んでいるとは誰も思わないからだ。
大人になるということは、複雑な世界の成り立ちに無感動になり、斬新で、革新的で、緊張度の高いものだけに目を奪われることでもある。
観察力を磨くためには、漠然と眺めるのではなく、積極的に(能動的に)情報を集めるようにして「見る」ことが大切なのですね。
(いつも漠然と眺めていました…反省)
(P42 より引用)
スティーブ・ジョブズもレオナルド・ダ・ヴィンチも、発明に欠かせないのは、新しいものを創りだす力そのものよりも、発見する力だと考えていた。
(P55 より引用)
観察力の訓練は、他の訓練となんら変わらない。最初は意識しないと集中力が保てないだろうが、訓練を重ねるうち、無意識の習慣になる。
そして身についたものは消えない。
観る技術を身につけるには?
この「観る技術」は、語学や楽器演奏と同様に、訓練して身につけることができて、さらに、”身についたら消えない”もので、 観察力を向上させるためには、まずは「注意力」と「記憶力」を鍛えるのが大切なようです。
本の中に、いくつも絵画作品がカラーで掲載されているのですが、読み進んでいく途中で、著者から、少し前に出てきた絵について、質問が投げかけられる構成になっています。
不注意な私は、その度に、「え???なんだっけ?そんなのあったかな~?」という感じでした。(@_@)
下記の2枚の写真の絵画をじっくり見て、どんなことを、いくつ読み取れるでしょうか?
(゜o゜)
(P47 より引用)
(P39 より引用)
…といった感じで、実際に絵を見ながら考えさせる質問が投げかけられる構成になっていて、興味深かったです。
(さっそく試してみたところ、ほとんど模範例とは程遠い、主観的なことばかりしか思い浮かびませんでした!ガックリ…)(^▽^;)
著者が、2枚目の写真(フェルメールの作品)から「2人の人物の関係性」まで、絵の中の情報のみをじっくり見て推測し、ひとつひとつ読み解いていくところが、特に興味深かったです!(驚)
客観的観察のポイントと、模範的?な解答例がくわしく書かれていますが、ネタバレになってしまいますので、興味のある方は、本書をご覧くださいませ。
同じ物を見ても、 人によって見え方が違う?
「どうしても、育った環境や文化などの違い、人それぞれの主観が入ってしまうので、同じ物を見ても見え方が違ってくる」ということについても説明されています。
(p82 より引用)
物事を正確に理解するためには、できるだけ多くの情報を集め、できるだけ多くの視点で見ることが大事だ。得た情報を整理し、優先順位をつけ、意味を解読する。タイトルや説明書きなど、事前に用意された情報を入れるのはそのあとでいい。
先入観なしに、まずじっくり見て、どんな情報が含まれているのかを見つけ出す練習をしてみようと思いました。
ありのままを自身の感情抜きに、見る訓練を重ねていくと「客観的な見方」が出来るようになっていくようです。
(練習をすれば、不注意な私にも、わずかながら希望が見えてくるのかしらん…???)
全体像を把握しつつ、細部にも目を向けることが大切
細部にこだわりすぎるのではなく、全体を俯瞰することも大切だと書かれています。
(う~む、なかなか一筋縄ではいきませんね!)
「全体像を把握しつつ細かい所にも気を配る」というのは、音楽家で例えるなら、オーケストラの指揮者のような目線?で見るということなのかなと思いました。
(あくまでも、私の主観的解釈ですが…)(^▽^;)
第1部を読んでみて、「美術作品を純粋に楽しんで鑑賞すること」とはかけはなれてしまいますが、こういう絵画の見方もあるのだな、ということに気づき、さらに読み進んでみました。
個人的には、美術作品として楽しむ場合は、これまで通り好きなように(主観的に?)楽しんで作品を鑑賞すれば良いと思いますし、
それとは別に、観察力を鍛えるためにあえて、いくつか作品を選び、練習?してみるのも良いかなと思いました。
第2部 【分析】
第2部は、じっくり観察して集めた情報を、どうやって分析していくのかについて書かれています。
あらゆる角度から見てみる事の重要性
ミケランジェロの「ダヴィデ像」を例に挙げて、写真付きで解説されている箇所では、なるほどと思うことがたくさんありました。
下記の写真は、美術館で「通常見学する場所から見た場合」のダヴィデ像。
穏やかな表情に見えますよね?
(P154 より引用)
一方、下記の写真は、普段見る位置よりも高い位置で正面から見たときのダヴィデ像。
表情が険しい感じで、ダヴィデ像って、こんな表情だったかな?と驚いてしまいました。
(P155 より引用)
見る位置をかえると… 同じダヴィデ像とは思えない厳しい表情。
下記の写真もかなり険しい表情に見えます。
(P157 より引用)
(P156 より引用)
ミケランジェロはダヴィデ像をどのように見せたかったのだろう。現在の展示方法が作者の意図に反していると考える学者は多く、それが正しければ、真の正面はダヴィデの視線が向いている方向になる。現在のような展示になったのは、あの像が制作された1504年の為政者たちがダヴィデの"まなざしには悪意があり、攻撃性が感じられる”ため、”おだやかな市民”に向けるのではなく、フィレンツェの真の敵、ローマに向けるべきと考えたからだ。
このように、ダヴィデ像は制作当初、フィレンツェのヴェッキオ宮殿を背にしてローマの方角に向かって設置されていたものを、1873年に、美術館内に移されたものだったのです。
設置された「向き」はそのままですが、観客が見る場所からは、建物の柱などの関係上、現在のような横から眺める位置になっています。
どこから眺めるか、視点をちょっと変えただけでも、これだけの違いを生んでしまっている事実にほんとうに驚きました。
自分では、じっくり観察していたつもりでも見落としていたことは、これまでに数限りなくあるのだなと実感しました。
美術鑑賞以外にも、自身の仕事などで、行き詰まりを感じたときなどに「視点を変えてみると良いのでは?」とアドヴァイスを受けることがよくありますが、時には「視点を変えてみる」ことは、今まで見えていなかったものを発見するための大切なプロセスだったのだなと、今さらながら思いました。
この第2部の例を見て、「視点を変えて、じっくり観察してみること」の必要性を実感しました。
「五感」を使って観察すること
たとえば、自然に親しむ時などにも、目に見えるもの以外にも、音や匂い、手触りなどにも注意を向けると、確かにより多くの情報が得られますね。
他者の視点から見てみる(考えてみる)ことの重要性
(P166 より引用)
他社の視点を想像すると、世界がぐっと豊かになる。他社の見方を想像する能力は、人間が持ついちばん重要な能力といってもいい。
(P170 より引用)
自分が見たり、聞いたり、においに気づいたりするからといって、ほかの人もそうとはかぎらない。自分にとっては当たり前の情報も、他人にとっては馴染みのないものかもしれない。
たとえば、ニューヨークの住人はサイレンの音に慣れきっているが、田舎の人が慣れているのはコオロギや鳥の声だろう。自分の世界について誰かに説明するときは、当たり前と思っていることも省かないように。
(P174 より引用)
視点が変わると、私たちの見ている世界も変わる。今日、ある人が感じたことや、発言したことが、明日にはひっくり返るかもしれない。
なるほど、確かにそういうことは多々ありますね…
いろいろと考えさせられる本です。
第3部 【伝達】
この章は、伝え方について。
- その場に合った言葉を使えているか
- メッセージを確実に届けるためには、まず聞き手を知ること
などについて書かれています。
正確に情報を伝えるとは?
コミュニケーションの誤解を防ぐための伝え方について書かれていて、日頃の生活にとても役立つ内容だなと思いました。
(P220 より引用)
事実を正確に伝えたいなら、意識して客観的な表現を選ぶことだ。数字、色、大きさ、音、位置関係、材質、場所、時間について説明しているうちは安全と思っていい。”多すぎる”ではなく具体的な量を示し、”大きい”の代わりに寸法を述べる。測れないときはだいたいの大きさを計算したり周囲のものと比較したりする。
聞き手が誰なのかということにも注意を払う
(P227 より引用)
アーティストは作品が万人に受け入れられることを夢見るが、現実はそうはいかない。多くの人に見てもらえる作品もあれば、そうでないものもある。また、見る人によって、気に入る作品はちがうはずだ。
経験豊かなエージェントや編集者や美術収集家が評価するのは、自分の作品のターゲット層を把握し、そこに向けて創作できるアーティストだ。
(P228 より引用)
相手によってメッセージが伝わりやすくなるように工夫しなくてはいけない。見方や聞き方は、ひとりひとりちがう。聞き手のことを考えてメッセージを組み立てなければ、伝わり方にばらつきが生じる。
これらは、聴きに来てくださるお客様がいらしてこそ成り立つ、自身の仕事(音楽)においても、とても参考になります。
(常に、肝に銘じておかなければ!)
そして、コミュニケーションにおいてもやはり、練習すれば、弱点克服につながるし、コツを身につけることも出来ると書かれていて、励みになりました。
(努力は人を裏切らない???)
話の上手な人は、簡潔に話す
何かを伝える時にも、やり過ぎは禁物で、必要のない情報を盛り込みすぎず「簡潔に」伝えることが重要だと説いています。
第4部 【応用】
この章では、「無意識バイアス」「経験バイアス」などについて、それを克服する方法などが書かれています。
バイアスを自覚し、悪いバイアスを排除していくこと。
バイアスを事実と混同しないことが大切であることが書かれています。
「 不確かな状況に対応する方法」にも触れていて興味深いです。
分からないことは、とりあえず置いておき、現在分かっている情報に集中して対応策を考える事など、様々なアイデアが書かれていて参考になりました。
まとめ
じっくり観察して情報を得る「知覚の技法」 を知ることは、観察力が鋭くなるだけでなく、思考パターンまで変わるようです。
アート作品などを注意深く見る事を通して、「注意力」や「記憶力」が鍛えられるとは思ってもみませんでした。
最初手に取り読み始めた時には、思っていた本とは違っていましたが、時にはいつもと違うジャンルの本を、最後まで読んでみることも悪くないなと思いました。
偶然にも、思いがけず興味深い事柄を知ることが出来て、良かったです!
観察力を磨くために参考にしたいと思ったこと
- 全体像を把握しつつ、細部もしっかり見ること
- できるだけ多くの情報を集めて、色々な視点から見てみること
- 一見分かり切ったことのように思える事もおろそかにしないこと
- 客観的に見ること
- 集中して細部に注意をはらうこと
などです。
最後に、印象的だった箇所を引用させていただいて結びにしたいと思います。
(P332 より引用)
知覚が変われば、世界が変わる。
絵そのものは変わっていない。変わったのはあなただ。
日頃から、感覚を研ぎ澄まして、意識的に観察力を磨く練習をしていきたいと思いました。
最後までお読みくださりありがとうございました。
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