西洋絵画を見るのがさらに楽しくなるおすすめ本【入門編】
絵画や彫刻などの美術作品は、予備知識などなくても、その素晴らしさと魅力だけでも充分楽しめますが、「作品の背景知識」や、いくつかの「決まり事」を知っているとさらに楽しく鑑賞できますね。
美術館などで作品を見る前に知っておくと、役に立つ知識が満載のおすすめ本をご紹介いたします。
しかし、難しい専門書を紐解くのは気が引けてしまいますよね?
でも、心配ご無用です!
これまで美術史など、詳しく知らずに生きてきた?私にも興味深く読めた、わかり易い本を、ご紹介させて頂きます。
よろしければ、参考になさってくださいませ。
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池上 英洋著「西洋美術史入門」
「そもそも美術史とはどんな学問なのか?」
「なぜ美術史を知ることで、絵画鑑賞が楽しく(興味深く)なるのか?」
と、いった疑問への分かりやすい解説から始まります。
名画をいくつか例に挙げながら、その絵のなかに込められたメッセージを読み解く方法が、くわしく解説されています。
- 識字率の低かった時代に、大衆に向けて伝えたい事を絵画にして伝えたこと
- 「絵画のテーマの選択と流行」には、必ず当時何らかの理由があったこと
- 「絵画に描かれた人物が誰なのか」ということを観る人に伝えるための「符号」(アトリビュート)について
- カトリック諸国では、聖人像を、よりわかり易く感情移入のし易さを求めていたこと
- 必要性がないかぎり、絵が描かれることはなかったこと
- 絵画から読み取れる、当時の人々の暮らしや考え方、社会構造(絵画の中に見られる階級差など)について
などなど、名画を例に挙げながら解説されていて非常に興味深いです。
読み進むうちに、例に挙げられた絵画を、実際に観に行きたくなってしまいます!
(^O^)
新書版の小さな本ですが、内容は本当に盛りだくさんで、基本的な事柄から、懇切丁寧に分かりやすく書かれていて、とても参考になりました。
本文中の口絵は、残念ながら白黒ですが、冒頭に8ページ、カラー写真で本文に登場する絵画が収録されています。
「西洋美術史入門」口絵 7,8,9 より引用
学生さん向けに書かれた「ちくまプリマリー新書」シリーズですので、とても分かりやすく解説されていて、美術に関して詳しくない私にも、とても読みやすい本でした。
続編の、池上 英洋著「西洋美術史入門」〈実践編〉も、おすすめです。
続編では、さらにひとつひとつの作品を実例に挙げながら、ポイントが解説されています。
- ローマにある、イエズス会の教会のアンドレア・ポッツォの天井画のだまし絵や、クーポラについての解説
- 絵巻と絵画の鑑賞方法の違いについて
- 木の文化と石の文化の違いについて
- 世紀末のジャポニズムについて
- ナポレオンの宣伝画家は、モデルを務められない多忙なナポレオンの代わりに、工房の弟子にナポレオンの軍服を着せて描いていた話
など、エピソードとともに解説されていて興味深いです。
気になった方は、ぜひチェックしてみてくださいね ☟
三浦 篤 著「まなざしのレッスン」
この本は、東京大学教養学部の総合科目「美術論」の講義をもとに書かれた本です。
と、言っても難解な解説書ではなく、分かりやすくて、「なるほど、そうだったのか!」という事柄が、たくさん発見できる本です。
先ほどご紹介した、「西洋美術史入門」の内容を、さらに細かく解説した感じの本です。
- 「具体的な絵の見方」
- 「イメージの読み解き方 」
などが、詳しく解説されています。
「はじめに」より引用
西洋絵画の予備知識のない大学1年生に、絵を見る面白さを何とかして伝えたいというのが、私のささやかな願いでした。できるだけ講義の骨格と雰囲気を残すように努めましたが、独立した実践的美術書としてどなたでも読めるように工夫はしたつもりです。
作品は、楽しんで見るということが、いちばん大切ですが、「伝統」「文化」「時代」「地域」などの背景知識を少し知っているだけで、面白さがさらに深まりますよね!
多数の有名な絵画が、例に挙げて説明されていますので、美術館に行く前、時間のある時などに読んでおけば、絵画を見る際の視点が広がって、より楽しめるのではないかと思いました。
西洋絵画史においては、扱うテーマによって、「序列」が存在していたことから、ジャンル別に解説されています。
15世紀から、18世紀までに高貴なジャンルと考えられていた、
- 宗教や神話をテーマとした「歴史画」
- ギリシア神話をテーマとした「神話画」
それに対して、付随的なジャンルの、
について、分けて書かれています。
当時ヨーロッパでは、ギリシア神話、旧約、新約聖書をテーマとする「歴史画」を描くことが、画家にとって最高の仕事であるとみなされていた時代が、長く続いていたということも、この時期の西洋絵画を観る時の大切なポイントだということが分かりました。
内容を、少しご紹介してみます。
ギリシア神話の神々を描く際、そこに描かれた人物が誰だかわかるように、「アトリビュート」(象徴物)と呼ばれるモチーフを一緒に描いて表現していました。
「神話画」の章では、どんなアトリビュートが使われているのか具体例を挙げながら説明されていて興味深いです。
例えば、
「ゼウス」のアトリビュートは、王権をあらわす「笏」「鷹」
「アテナ」は、知恵と学芸をあらわす「ふくろう」
「アポロン」は詩歌芸術を司る神ということから「竪琴」「月桂樹の冠」
「ヘルメス」は素早い移動をあらわす「羽根の付いたサンダル」「2匹の蛇が巻き付いた杖」
などです。
「神話画」を見る時に、こういった「アトリビュート」に注目してみるのも面白いですね。
「宗教画」の章では、
システィーナ礼拝堂のミケランジェロの天井画の「創世記」の場面を描いた作品などが代表的ですが、同じテーマを扱っていても、画家によって違った表現で描かれているところが、興味深いと思いました。
その他、神秘的な場面を描く際に、「キアロスクーロ」と呼ばれる、テーマの表現効果を高めるための、「明暗表現」が用いられていることなどについても解説されています。
最後の晩餐
レオナルド・ダ・ヴィンチの手記には、絵画の目的についても書かれていて、
P89より引用
描かれた場面の諸要素は、それを見る者の心を動かして、物語に表されているのと同じ感情を体験させなければならない。すなわち、恐怖や不安やおびえ、苦痛や哀しみや悲嘆、喜びや幸せや笑いを感じさせなければならない。
この言葉もとても印象的ですね!
画家の意図が少しでも分かると、作品の見方が断然ちがってくるなぁ、と感じました。(あくまでも個人的な感想ですが)
物語的なテーマの内容を伝えるために、登場人物の「身振り」や「動き」も考えて表現されていました。
例えば、
キリストが右手を上げて人差し指と中指を立てる「祝福のポーズ」などについても、キリスト教について詳しく知らない私にとっては、とても興味深い内容でした。
画面左側の人物の右手の指に、ご注目!
宗教画にも「アトリビュート」が必須だったようで、
「マリア様」には、慈悲をあらわす「赤い衣」に、天の真実をあらわす「青いマント」
「聖セバスティアヌス」には、古代ローマの殉教者が矢を射られた姿をあらわす「矢」
「聖ピエトロ」を表す、天国の門の「鍵」
など、次回絵画を見る時に、注目したいことが、沢山書かれています。
衣装の色に注目すると、
向かって右側がマリア様であることが一目瞭然ですね!
抽象的な観念を人物像で表現する「寓意画」の章では、
凝った内容の図像が多くちりばめられている「寓意画」は、当時の知的エリートに向けて制作されていたという作品が多いですが、 ルーベンスの作品「4大陸」や、ボッティチェリの「春」などを例に挙げて解説されていて、込められた深い意味合いなどが分かり興味深かったです。
ルーベンス作「4大陸」
ボッティチェリ作「春」(写真上)
ルネサンス以降の肖像画の作品を見るときの着目ポイントが、書かれています。
P.171より引用
画家がもっとも注意を払ったのはおそらく写実性と理想化のバランス
本人に似ていなければいけないという一方で、あまり欠点まで描いてしまうと、依頼主を怒らせてしまいますし、画家もなかなか大変だったようです!(笑)
どの角度から描くのか、「アングル」も重要だったようです。
そう言われてみれば、真正面から描かれていたり、横向きだったり、斜めから描かれていたりしますね!
P.175 より引用
「モナリザ」の場合は斜め前方を向きつつも、顔と腕は人物にとって左方向は、しかしその間の胸は右方向へと、交互に微妙に捻った形になっていて、身体全体にさりげなくr流動感が付与されているのです。
「風景画」 の章では、
17世紀オランダでは、プロテスタントが多数派を占めてくるにつれて、偶像崇拝の禁止などにより、宗教画の依頼が激減。
読解に教養が必要とされる、「神話画」や「宗教画」の人気も衰退して、わかりやすい「風景画」「風俗画」「静物画」などが好まれるようになりました。
画家たちも需要の多いこれらのジャンルの作品を描くようになります。
都市の栄光をたたえるために、実際の風景ではないものが描かれたりすることもあったようです。
18世紀に入ると、カナレットなどの画家が描く、「景観画」が、ヨーロッパを旅するイギリスの貴族たちにもてはやされました。
まだ写真というものが無かった当時、旅行先で買う「絵葉書」のような感じだったのでしょうか?
贅沢ですね~ (゜o゜)
一枚の絵画を、時代などの背景と照らし合わせてみても、興味深く鑑賞できますね。
「風景画」は、17世紀オランダで盛んに描かれました。
気になった方は、ぜひチェックしてみてくださいね ☟
おまけ「アルブレヒト・デューラー」の作品「祈る手」エピソード
「肖像画」といえば、
以前、ドイツルネサンス絵画の代表者と言われる「アルブレヒト・デューラー」の作品「Praying hands」(祈る手)が描かれた際の、興味深いエピソードを思い出しましたので、あらすじだけご紹介いたします。
wikipedia より引用
デューラー 「 祈りの手 」 1508 | Brush drawing on blue primed paper, 29 x 19.7 cm | アルベルティーナ美術館、ウィーン、オーストリア
デューラーは、当時の神聖ローマ帝国(現在のドイツ)ニュルンベルクで、1471年に、18人兄弟姉妹の3番目の子供として生まれました。
彼の父親は、金細工職人として成功を収めていましたが、18人の子沢山だったため、一家は、食べていくだけで精一杯という状態でした。
アルブレヒトと兄のうちの一人、アルベルトは、絵を描くことにとても興味がありました。2人とも、ニュルンベルクの絵画学校に通って絵の勉強をしたかったのですが、家計を考えると、2人とも一緒に学校に行くことはできませんでした。
そんなある日、2人は、どちらか1人が学校へ通うことを、コイン投げで決めようと決意しました。
勝ったのは、弟のアルブレヒト(のちに有名な画家になった)で、約束通り、ニュルンベルクの美術学校に通い、猛勉強しました。
一方、兄のアルベルトは、危険な炭鉱での仕事に従事して、父親とともに一家を支えました。
4年の歳月が流れて、アルブレヒトは、持ち前の才能と努力の末、美術学校の教授を凌ぐほどの素晴らしい画家になって故郷へ帰りました。
お金も沢山稼げるようになったアルブレヒトは、自分が学費など様々なことを手助けして、今度は兄のアルベルトが美術学校で勉強できるようにと、提案しますが、兄のアルベルトは、4年も過酷な労働をして、傷んだ両手を見せながら、
「この手では、もう絵筆を握ることはできない。すべて遅すぎた。」と言い涙をながしました。
そして、アルブレヒトは後に、その兄の手を描いた作品を制作しました。
この優しい兄や、家族の助け無しに、たった一人の力や才能だけでは、アルブレヒト・デューラーの作品は存在しなかったのだなということがわかる、哀しくも美しいエピソードですね。
この絵をみる度、胸がジ~ンとしてしまいます。
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まとめ
西洋絵画を見る際、背景知識や、技法についてなど、基本的な事を少し知っているだけでも、見るのがさらに楽しくなります!
「アトリビュート」や、「作品のおかれている場所の光の入り方」「画家のエピソード」などなど、さまざまなことを知った後に、作品を注意深くチェック?しながら見てみると、今まで見たことがある作品も、以前とはちがった印象に変わるので、興味深いですね。
美術鑑賞をさらに楽しむためのヒントにしていただければ嬉しいです。
【1冊目】
【2冊目】
最後までお読みくださりありがとうございました。